Saturday 4 February 2017

イギリスを知る映画 vol.1 ベッカムに恋して(2)


2002年に公開されたイギリス映画「 Bend It Like Beckham/ベッカムに恋して 前回のブログに引き続き、今回はその見どころについて(ネタバレあり

前回のブログはこちら イギリスを知る映画vol.1ベッカムに恋して(1)

サッカーばかりしてチャパティも焼けない娘を誰がもらいたがるの?


インド移民1世の両親はインドの伝統と文化を大切にしている。ある日、ジェスがこっそりサッカーを練習していたことを知った母親はこう言う。「サッカーばかりして、チャパティも焼けない娘を誰がもらいたがるの?」 というのも、“インド人はインド人と結婚する”という暗黙の了解があるから。現に姉のピンキーもインド人男性と婚約し、結婚準備に追われる日々。恋愛についてチームメイトに聞かれたジェスはこう言う。

以下:ジェス(J)、チームメイトの女の子たち

G:So, you can marry a white boy?
      白人とも結婚できる?

J:White, no. black...definitely not. A muslim.
 たぶんダメ。黒人はもっとダメ。ムスリムだったら大激怒よ。

G:Sorry, but how you Indian girls put up with it.
 大変ね。インドの女の子はどうやって耐えてるの?

G:It's just culture.
 だって文化だもの


ベッカムを「坊主頭」と呼ぶ母親

ジェスは映画の中で「文化だから」「インド人だから」と言うことをなんども口にする。しかし、移民2世である彼女たちはインド文化を理解しながらも、両親よりもイギリス文化に馴染んでいるのも事実。例えば、両親はインド訛りの強い英語を話すが、ジェスは訛りのないイギリス英語を話す。いつも父親はターバンを巻き、母親はサリーは民族衣装を着ているが、ジェスは特別な日(姉の婚約パーティーや結婚式)以外はジャージやデニムなどカジュアルな服装。さらにジェスはアイルランド人のコーチ、ジョーに恋をする。


誰が自分より筋肉のある女の子と付き合いたいと思う?


サッカーを反対されたジェスはスパイクを植木の中に隠し、両親に内緒で練習を続けていた。ある日の練習後、ロッカールームでジェスとチームメイトはこんな会話をする。

以下:ジェス(J)、チームメイトの女の子たち(G)、ジュールズ( Jul)

J: Nah, my mum and dad ain't got a clue.
 母さんも父さんも私が今どこにいるか知らないの。

G: - So, you mean they've no idea you've been playing all this time?
 ってことは、あなたがいつも練習していることも知らないの?

J: - Nope.
 その通り。

G: - Where do they think you are?
  じゃあどこに居ると思ってるの?

J: - At work. They think I've got a job at HMV.
 アルバイト。HMVで働いてることにしてるから。

G: - Blimey. That's not on.
 え〜、そんなのありえない。

J: - Indian girls aren't supposed to play football!
 インド人の女の子はサッカーをすべきじゃないのよ!

G: That's a bit backward innit?
 それって、時代遅れな考えじゃない?

Jul: Yeah, but it ain't just an Indian thing is it. I mean, how many people come out and support us?
そうかもね。でもそれってインド人だけのことじゃないと思う。つまり、一体どのくらいの人が私たちのサッカーを応援してくれる?

ブリティッシュ・インディアンのジェスだけでなく、白人家庭に生まれたジュールズ(キーラ・ナイトレイ)も悩みを抱えていた。練習に励む彼女をサッカーファンの父親は応援してくれるものの、「誰が自分より筋肉のある女の子と付き合いたいと思う?」と母親は反対していたのだ。そして、スポーツブラを欲しがるジュールズにレースのついたランジェリーをすすめたり、女の子らしく振舞うことを求める。しまいには彼女がレズビアンであることを疑いはじめる。母親の妄想はどんどん広がり、とんでもない行動に出る。そんな母親に対してジュールズは「私はレズビアンじゃないわ。でも、たとえレズビアンだとしても、ちっとも問題じゃないでしょう?」と憤る。

「娘が同性愛だと思う」と泣きながら伝えるジュールズの母


ベッカムに恋して


幼馴染であり、サッカー仲間だったトニーは夢を追いかけるジェスを唯一応援してくれる存在。姉のピンキーや周囲の人は「トニーはジェスに夢中」と思っており、ジェスもそれは否定しない。ある日、トニーは「ベッカムが好きなんだ」とジェスに打ち明ける。みんなベッカムは好きよ、と言うジェスに彼は「そういう好きじゃないんだよ」と伝える。彼は自分が同性愛者であることを、カミングアウトしたのだ。そんな彼にジェスは真っ先にこう言った。「でもあなたはインド人なのよ!




アイルランド人だから分かるでしょう?


試合中に、ジェスが相手チームの選手から「パキ!」と差別発言を浴びせられた。これはパキスタン人に対する侮蔑的な発言で絶対に言ってはいけないもの。さらに、ジェスはインド人だ。激怒し、相手につかみかかったジェスはレッドカードをもらい退場になる。試合後、彼女のとった態度に対してコーチであるジョーは厳しく注意する。ベンチにいた彼には相手の侮蔑発言が聞こえていなかったのだ。そんな彼にジェスは「あいつは私のことパキって呼んだのよ!アイルランド人なんだから、あなたもそのきもちわかるでしょう?」と言う。かつてイギリスの植民地であったアイルランド人たちも、人種差別に苦しんだ過去がある。また、彼は女子チームのコーチであるがその功績が認められ、男子チームのコーチとして「昇格」するという話も出ている。

実はジェスの父親もスポーツで差別にあった経験を持つ。ナイロビでクリケットのスター選手だった彼はイギリスでもチームに入ってプレーをしたかったが、インド人であることから差別を受け挫折する。だからこそ、ジェスには同じ経験をしてほしくないと反対していたのだ。


このように映画の中ではそれぞれが「インド人らしさ」「女らしさ」「男らしさ」いろんな「〜らしさ」と「自分らしさ」の間で葛藤しながら生きている。タイトルBend It Like Beckhamは直訳すれば「ベッカムのように曲げろ」つまり、「ベッカムのようにカーブを描いてゴールを決めろ」という意味になる。しかし、このタイトルの意味はそれだけでない。伝統や既成の価値観に負けず(曲げて)、「自分らしく生きようというメッセージも込められているのだ。

劇中で使われる賑やかなインドの音楽や、華やかな結婚式のシーン、そしてボリウッド映画さながら出演者が歌って踊るエンディングも見どころだ。


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